2026年1月29日

在宅人工呼吸療法:停電から命を守る「ポータブル電源」の補助金制度——2019年の転換点と手続きのポイント

 

はじめに:災害への備え、電源は「自己責任」から「公的支援」へ

在宅で人工呼吸器や吸引器を使用されている方にとって、停電は単なる「不便」ではなく、命に関わる緊急事態です。かつて、これらのバックアップ電源は「医療機器の付属品」や「個人の備え」として扱われ、公的な補助を受けるのが非常に難しい時期がありました。しかし、相次ぐ大規模災害を経て、その常識は大きく変わりました。今回は、意外と知られていない「ポータブル電源」の補助金制度について解説します。

1. 2019年、制度を動かした厚生労働省の通知

大きな転換点となったのは、2019年(平成31年)3月29日の厚生労働省通知(障障発0329第5号)です。この通知により、障害者総合支援法に基づく「日常生活用具給付等事業」の対象として、以下の品目を追加可能であることが全国の自治体に示されました。

  • 蓄電池(ポータブル電源)

  • 発電機

  • DC/ACインバータ

東日本大震災や、北海道でのブラックアウト(全域停電)の際、電源を失った在宅患者さんの命が危険にさらされた教訓が、ようやく制度に反映されたのです。

2. 補助制度の仕組みと対象者

この制度は、市区町村が主体となる「地域生活支援事業」の一部です。

  • 対象となる方: 一般的に、在宅で人工呼吸器や吸引器を継続して使用しており、避難行動に支援が必要な身体障害者(児)が対象です。

  • 補助の範囲: 自治体ごとに「基準額」が設定されており、その範囲内で購入費用の9割(原則)が補助されます。

    • 例:基準額 100,000円の場合、自己負担 10,000円で導入可能。

3. 申請に必要なものと「自治体による差」

申請には、主に以下の書類が必要となります。

  1. 申請書(市区町村の窓口で入手)

  2. 医師の意見書・理由書: 「なぜこの患者に非常用電源が必要なのか」を主治医等に証明してもらう書類です。

  3. 製品の見積書: 検討している製品のスペックがわかるもの。

ここで注意が必要なのは、「自治体によってルールが異なる」という点です。

  • 「ガソリンを使う発電機は火災の危険があるため不可、ポータブル電源のみ」とする自治体。

  • 基準額が5万円のところもあれば、10万円を超えるところもある。

  • 所得制限の有無。

まずは、お住まいの自治体の「障害福祉課」などの窓口で、「日常生活用具としてポータブル電源の給付があるか」を確認することが第一歩です。

 

4. 臨床工学技士からみた「電源選び」のアドバイス

補助金が出るからといって、どんな電源でも良いわけではありません。医療機器を繋ぐ場合、以下のスペックは必須です。

  • 「正弦波(せいげんは)」出力であること: 家庭用のコンセントと同じ安定した波形でないと、精密な医療機器は故障や誤作動を起こす可能性があります。

  • 容量の計算: 呼吸器の消費電力を 、必要な時間を とすると、 以上の容量が必要です。余裕を持って、使用時間の2倍程度の容量を検討することをお勧めします。とはいえ、長時間の作動を考えると、大型になり重量も重くなり、高額になります。重くなると持ち運びが困難になることから、「容量」と「重量」の検討には注意が必要です。

おわりに

災害はいつ起こるかわかりません。2019年の通知以降、この制度を導入する自治体は急速に増えています。「うちは対象になるのかな?」と迷われたら、まずはケアマネジャーさんや、あるいは自治体の窓口へ相談してみてください。命を守るための準備に、「早すぎる」ということはありません。


引用・参照元:

  • 厚生労働省:日常生活用具給付等事業の実施について(平成31年3月29日通知)

  • 障害者総合支援法 第77条(地域生活支援事業)

     


     

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